2020/3/12-16・パラオ共和国 透明度15-40m 水温27℃
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シーリングファンのぶら下がっている高い天井の部屋で
目が覚めると、
毎朝この風景を見ながらレストランに向かう。
Tシャツと、短パン。
壁の開け放たれたビュッフェスタイルの一角でシェフが
オムレツを焼いていて、
快適な湿度の空間を吹き抜けていく気持ちのいい風が、
その仕上がりを伝えている。
プール越しに広がる海を眺めながら、おこぼれを狙うスズメと
戯れる。
あと一時間もすると、お迎えの船が来る。
おかわりのコーヒーを頼んで、今日の海に思いを馳せる。
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プライベートビーチから延びる桟橋で、お迎えの船を待つ。
ぼくたち以外に人はまばらで、レストランもそうだったけど
特別な場所に、特別な存在としてそこにいるような錯覚。(笑)
そこら中の景色を独領しつつ、
新鮮な空気を腹の奥底に届くよう深く吸い込んだ。
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猛スピードで船はダイビングポイントに向かう。
小一時間の船旅だ。
エンジンの轟音と風切り音に聴覚は奪われ、
頭髪が後方になぎ倒されながら、それでも船は揺れることなく、
鮮やかな青を映し出す鏡のような海面を疾走する。
猛烈な紫外線が海の色を透き通り、
海底に堆積した真っ白な砂に反射する。
そのブルーは、どう撮ってみても
ファインダー越しでは褪せてしまう・・・。
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「デクスターウォール」
という、外洋のポイントに着いて少し緊張の1本目を迎える。
しかし、
とろけるように温かく、透明にひらけた海の中に、
一瞬にして緊張の影は蒸発する。
柔らかいサンゴをベッドにアオウミガメが至る所で
舟を漕いでいた。
鼻ちょうちん出そうな勢いで、それは気持ち良さそうに。
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
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そして僕たちは、この旅の目的の一つでもある
「ブルーコーナー」に潜る。
至近距離をかすめるでっかいサメたち、
視界いっぱいに広がるギンガメアジの群れ、
大きな体に鋭い歯を持つバラクーダの群れ、
1mを超えるでっかいカンムリブダイ、
ナポレオンフィッシュにイソマグロ、
巨大な魚たちが目の前に現れては消えていく。
道具やスキルを忠実に使いこなしながら、
流れの速いこの難しいコンディションを遊び倒した。

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昼食は無人島で頂く。
今回の旅では2回も、ロングビーチに上陸させて貰えた。
干潮になると出現する、数キロにも及ぶ真っ白な砂の一本道。
20年ほど前だろうか、JALか何かのCMで使われ有名になった
この秘境も、昨今では中国、韓国からの旅行者でごった返し、
ほとんど近づけなくなっていた。
その場所を、ひ・と・り・じ・め♪
歩き、寝転び・・・
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ぷしゅーっ!!
素晴らしいご提案、ありがとうございましたっ。
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お肉も沢山頂いた。
でもとりわけ美味しかったのは地産のシーフード。
その中でも今回は、ヤシガニが最高に旨い。
かったい殻の下に詰まっている筋肉質で分厚い身には、
重厚なカニの風味・甘みが、うっすらとした塩味と共に混ざって
僕は思わずうなってしまう。
小さいころから極上の毛ガニや、タラバガニを食し、
相当カニにはうるさいこの僕が唸るのだから、これは本物。
これ程おいしいヤシガニに会った記憶ははるか昔に遡る。
白ワインと共に食は進み、
赤ワインと共に夜は更けて、
ウィスキーと共に一日は終わる。
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貸し切りの「ブルーホール」。
ここにも人影がなく、
ただただ青色がコロコロとその表情を変えていた。
眩しい水色の開口部から、光線が降り注いで
下に降りていくにつれて濃紺になり、
海底ではほぼ闇の世界になる。
他に人がいないせいか、
今までここに入ったことは数あれど、今日が一番神秘的。
酸素の濃い空気を詰めたタンクを背負って、
いつもより体が軽い。
極上のひと時。
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4日目にし、て初めての雨が降った。
すぐに晴れると知っている乾季のスコールは
はっきり言って伴奏のようなもので、より世界を際立たせる。
ぼくはジャックジョンソンを口ずさみ、
ボートを操るキャプテンは視界を雨に奪われて、
アクセルレバーから手を離した。
一瞬すべての音が消えたけど、
聴覚がその錯覚に気づき始めると、雨音が鼻歌に交じった。
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そして、この5日間でボルテージが最高潮に達した
「ジャーマンチャネル」
海底に腰を据えたとたんに彼らは目の前に現れ、
1匹、2匹、3匹・・・8匹とその数を増やし、
ずっと周りを舞い始める。
泳がずにじっとしてるだけ。
次から次へと現れる彼らにその度に魂を奪われる。
1匹の大きなマンタがこちらに飛んできて、
直上をかすめていったとき、
「これ以上は無い」
そう思った。
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海の上、もしくは海の中で過ごしてホテルに帰ってくる。
目の前の砂浜にはいつも気前よく夕日が沈んでいく。
その夕陽を見ながら、プールサイドのバーでカクテルを傾ける。
ここに訪れる度にいつも気さくに話しかけてくれる
パラオの女性バーテンダーが作ってくれる逸品。
その彼女が今年でこのホテルを退職する。
この旅の一番の目的だったかもしれない。
僕等の事を覚えてくれていて、僕らもそのことを覚えていて、
彼女の退職の前にもう一度ここで夕陽が見たかったのだ。
この5日間を思い出すと、
人の少ないパラオの絶景に
彼女の笑顔がいつでも浮かび上がる。
おいしかったヤシガニと共に・・・。
まさ